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I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

天国についてもう少し詳しく 1

 僕が信仰に目覚めたのは20歳の誕生日を迎えて最初の土曜日だ。
子供の頃は神様なんて信じていなかった。サンタクロースの非実在は母親から8歳の時に告げられた。
父はエンジニアで、無神論者だった。神は妄想であると切り捨て、物事は科学によって説明できると説得する。そういう教育を受けて育った。
学校の前で聖書を配る人間を論破して吹聴するような子供だった。

 手術を受けた日に医師は僕のMRI画像を見て言った。
「私は何年もこの手術を行っているが、こんなにシルヴィウス溝が発達していない脳を見るのは初めてだ。匿名性を保った上で、この画像を私の学生たちに見せてもいいかね?」
僕は快く受諾した。医師はなぜ僕がこの術式を受けたのか問うた。
「自分でもよくわかりませんが、昔から聖書に惹かれるものがあるのです。私の家は無神論者で、そういうことを口にするのは憚られていたのですが」
医師はその一言で納得したようだった。
実際の理由は、信仰は労働市場で極めて価値の高い資質だからだ。しかしそれを口にすることは許されない。容姿が労働市場で高い価値を持っているからといって、整形手術を受けるのが厭われるのと同じように。
 アリのように小さい、シート状のデバイスを、頭部の表皮を切開し、頭蓋表面に貼り付けることで、僕は神を感受するようになる。そして立派な信仰に目覚め、家に転がっている聖書の言葉は特別な意味を持つようになる。
 米国で行われた大規模追跡調査によれば、これを受けた人々の寿命は、プラセボ群に比べ5年ほど長く、主観的健康感も幸福度も高く、犯罪を行う確率は低く、年収は高い。
これだけの社会的利益にも関わらず、この手術に保険適応はない。この国に長く根ざした無神論者の系譜がそうさせるのだろうか。しかしながら、僕の周囲の大学生は何人か、全くの合理的理由から、この手術を受けている。高校卒業と共に、美容整形術を受ける女子高生のように。
 僕は脳に小さなデバイスを埋め込んだ。それは定期的に微弱な刺激を与え、僕の信仰を発達させる。
未成年では親の同意が必要だったから、僕は成人するまで待った。両親にこの手術を受けたことを言うつもりはない。信仰は密やかにささやかに行うつもりだった。聖書一つと毎週日曜の礼拝があればいい。その習慣は僕を健康にし、幸福にし、おそらくは高い社会的地位を授ける。