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I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

十字街6

二人がやっていたのを目撃したわけではないが、その雰囲気は濃厚で、そのけだるい空気とどことなく気まずい僕を見る目線が。
同じ屋根の下に住んでいることから推察するべきだったのかもしれない。
今になって考えてみれば思い当たる節はいくらでも思い当たる。正直、そんな状況に耐えられるほどの人生経験があるわけでもない。
どこか遠くに消えてしまいたかったし、それを遮るものは何もなかった。
ドアをしめて、どこか遠くに行こうと考えて、列車に乗ることにした。

向かい合った席に一人で座って、キヨスクから盗んだ推理小説を読んでいた。スイスイ読める作品だった。
途中で一息ついて、お菓子をかじりながらゆっくりと意識を失っていく。

電車に揺られて目を覚ます。
お客さん、終点ですよ、と声があった。そこはどこともしれない田舎だった。
車掌に切符をなくした旨を話すと、どこからだと言われ、箱本駅だと答えると、そんな駅は無いはずだと彼は答える。
寝ぼけてるのかもしれないですね、と彼は言う。
僕はじゃあ始発の、何倍でしたっけと答えると、お代は要りませんと彼は答える。
「10年前にも一人、その駅から来た子供がいたんです。前任者もそういう出来事があったようです。どこでもない場所から来たのだったら、そういう料金表はありませんから」
そう答えると、あまり考えないように、と付け加える。
「街に高速バスが出ています。ここはもう廃線寸前の路線なので、明るいうちに街に出るにはバスを使うしか無いのです。駅からはすこしはなれていますが、大きな建物なのですぐに分かります」

実際そこはすぐにわかった。チケットは手売りで、2000円もした。顔は妙に見えづらかったが、やや低めの女性の声を聞いた。
見覚えのある光景なんてのは見えてこなかった。
バスに乗り込むとき、前のおじいさんが少しよろけた。それを支えると、彼はすまないね、と言った。
すこしよろけながらいえ、と言うことが出来た。その言葉は彼の深い皺をわずかに動かした。