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I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

序文 大災害を導いたとされる未来予測機から再構成した過去について

 シミュレートの不完全な実装としてのD機関は、あり得る未来の可能性を幾つかの層に分けて、それぞれが相互に関連し合いながら幾つかの未来を示すという点で、凡庸な未来予測機とのちがいを示していた。製作者たちは遠い未来への利用に関しては全く想定していなかった。彼らはこれを芸術作品と名づけていた。つまり、未来がどのように変化していくことは本質的に、その範囲すらも、等比級数的に広がっていくのだから実質的に予測不可能である。それを視覚化したのだと、彼らはインタビューで語っている。

 発売直後から実業家たちはそれを未来予測に利用した。それが指し示す幾つかの結果を統計的に処理して可能性の高い方に賭けるようにしたのだ。
最初期においてそれは絶大な成功を収めた。遠い未来への予測を彼らはしなかった。どんなに長くとも半年までに決めていた。しかし統計手法の発達に伴いそれはさらなる期間の延長が可能になったと宣伝された。人々はこぞって株を買い、そして事実株価は限りなく上がった。予測可能な未来という神話は無秩序に広がっていくように思えた。
 
 ”大災害”が起こった。世界は温かい安心感に包まれ、希望が増え始め、先進国の出生率が高まったその矢先だった。
大災害の可能性は以前から存在していたが、それは無視できるくらい小さな確率であった、と実業家たちは唱えた。
製作者たちは予測していた事態であり、我々は開発当初からこれを芸術品と名付け、そう主張してきたと答えた。
非難の目は製作者たちに向けられた。幾つものバグが新たに発見され、コードを読めない人々がそれを批判する。

 私は大災害がどのような出来事であるかを把握することが出来ない。大災害はあらゆる文献を壊し、保存への欲求を破壊した。人々はその日暮らしに慣れきってしまい、そんな期間が何百年も続いた。

 大図書館の地下室から奇跡的に発見された階差機関のコードを復元し、それが見せてくれる光景から有り得そうな繋がりと、各地に広がる僅かばかりの伝承から推察し再構成した過去を私は描く。それは確実なものではない。さらなる研究が進み、精緻な試料分析器や、新しい文献が見つかれば、大災害へと向かう人類について、もっと確かなことが言えるだろうし、私の説明の幾つかが誤ったものだとわかる時がくるだろう。

 私はD機関の製作者たちに大いなる尊敬の念を抱くし、その意図は美しいものだと感じる。しかし大災害を経た人類にとっては使いこなせる代物ではなく、私はこれを破棄することに決めた。予言が危険だということは言ってわかることではない。それが歴史からのささやかの教訓であろう。