読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

十字街3

短編小説 十字街

外に出て、商店街に向かう。人通りはそこそこに多い。
スーパーに入り、カゴを渡される。
「食い物は惣菜と弁当。歯ブラシやら電池やらなにか必要な物があったら入れてけ」
安中はそれだけ言うと手慣れた手つきでかごに惣菜を入れる。やけに揚げ物ばかりに偏っているから、俺はサラダなんかを多めに入れておく。
歯ブラシやらタオル、それから石鹸なんかをひと通り入れておく。レジに並んでいると安中がこっちだ、と言って俺の手を引く。
「いいか、お前は何を見てたんだ、レジに並んでもお前は受けることが出来ないんだ。何をしたって彼らは関心なんて持ちはしない」
そう言うと彼はカゴを持ったまま店を出た。ブザーがなるが誰も安中に注目することはなく、当惑しながらレジの並びに流されていくが、俺の目を見ても店員は何も反応しない。いたたまれなくなって、行列をかき分けて安中がしたように店を出る。
「お前も出来ねえっていうタイプか?」
「いや、別にそういうわけじゃないですけど、試してみたくて」
「まあそりゃあそうか。誰も追いかけてこないだろ」
「そういえば」
「そういうことだ。例えば道行く人間を殴ったところで、痛みには反応するが、その相手には反応しない。さっきだってブザーには反応したが、俺達には反応しなかっただろ」
「そういうの、なんていうんでしたっけ、哲学的ゾンビ?」
「こいつらが哲学的ゾンビなら俺達には普通の人間と見分けがつかないはずだよ。それを示す言葉はない。あえていうならシカトされてるってのが一番近いか。それも完璧な無視だ。無視してることだって気づかせないんだからな。社会の手続きさえも俺たちを無視してるわけだからな」
「出れないんですか」
「それを今探しているんだ」
「ゲームやってですか」
それを指摘されると安中は険しい顔をする。
「ゲームの中だと普通に話せる。だからと言って深く話をしているわけじゃないがな。事情を説明しようにも浅い仲だからな。近くにいる人間ならオフでもして試してみたい気もするが」
「安中さんはここにきてどれくらいなんです?」
「だいたい三ヶ月くらいだな。時雨は一ヶ月くらいだ。早く慣れてほしい」
そういうと煙草を取り出して、深く味わうように吸う。
これが結構貴重品でな、と安中は言う。煙草はケースの中に入っているから、なかなか忍びこむのが難しく、さすがに自然に盗むのは難しいということらしい。タスポは置き忘れてしまい、当然再発行の手続きもできない。新しい銘柄はコンビニでも置いてあるが、吸いたい銘柄を取るにはかなり荒っぽいことをしなきゃいけない。しかしそんなことばかり繰り返すと店は潰れてしまうのだという。安中は実験と称して一つのコンビニの窓を全て叩き割ったり、原価率の高い品物に限定して盗み続けたりしたところ、あっさりと店は潰れてしまう。
「だから、俺達は別に幽霊というわけではないんだ。ただ、意識されないというだけだ。俺達の行為はきちんと経済活動に影響を与えているわけだ。連中に愛着はないが、破滅させるのは好かない」
「じゃあなんでそういうことをするんです?」
「そりゃ、仮説の検証だよ。一つわかるために何匹も動物が死ぬ、それは必要な対価だろ」
「なんだかややこしくなりそうですね」
「そういうことだ。俺一人でいる間は単純だったんだがな」
そんなことをしゃべっている間に家に着く。相変わらず人は僕達を認識せず、しかし彼ら同士は親しげに、本当の人間みたいに他愛のない話をしている。