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国松Aの真実の世界

国松Aが坂口C=中心人物のスマートフォンを拾ったときに、彼のパスコードロックを解くことができたのは単なる偶然である。彼は自分の誕生日をパスコードにしていた。0412。だがそれをAが知っていたわけではない。彼は単純に一万分の一の確率に当たってしまったのだ。それをおしいに、と呼んで覚えられることにすぐに気づくと、彼は携帯を持ったまま高校からの帰路についた。

 

春休みがはじまる。

 

春休みの良いところは誰と顔を合わせなくても良いことだと、Cは思う。彼の家庭には人がいない。少なくとも彼そう考えている。兄は五年ほど部屋から出たことがない。父が仕事から帰る姿をみたことがない。母は離婚していなくなった。

家にいてだらだらしていても何も言われることはない。

あえてやることがあるとすれば、兄の部屋にダンボールを届けることくらいだ。その中には食品やら水やら様々なものが入っている。何をしているのかはしらないが、ネットで金を儲けているという事なのだと思っている。

 

家に帰って部屋に入り坂口Cの携帯電話を眺める。充電もまだ十分あった。手始めにメールを開くが迷惑メールばかりで何もめぼしい情報はない。ときどきメールアドレスを交換したらしき無機質なメールがあるくらいで、彼が考えているリア充はこうであるはずだというメールとは随分と違っていた。坂口Cはクラスの中心人物だからきっといろいろな人と話しているし沢山のメールを送り合ったりしているはずだと国松Aは考えた。彼は昔の2chのコピペを思い出す。自分が2chで見る文章は全て、自分と他の一人が書いたものだという、あれだ。このメールは俺を勘違いさせるために作られたものなのかもしれないと、そしてここには盗聴器か何かが仕掛けられていて、俺はきっと春休み明けに笑いものにされるのだ。それだけは勘弁して欲しかった。

 

アドレス帳を眺めた。これならば眺めていても、君の連絡先を探していたのだと言って言い訳がたつ。彼のプロフィールには非常時用の連絡先はなかった。それに妙に登録しているアドレスが少なかった。クラスの多くの人間にアドレスを聞いていたようだったが、実際に登録されているのは20人ほどだった。それにそのうち4人は家族だった。兄と妹と両親だろうか。俺はここからメールを送ってやるべきなんだろうか。そんな義理はない、と考えて他のサービスを探してみる。ゲームはどれも中途半端だった。2chまとめサイトを見ているのが意外だった。携帯の履歴は概ね18禁サイトだった。その行動自体は別段国松Aと違いはないように思えた。国松Aは女と話したことがない。坂口Cに彼女ができたという話を聞いたことはある。たしか隣のクラスの井上Kだったと思う。井上Kについては何も知らない。しかしそれは意外性がないように語られていた。

国松Aは噂話を聞き出すことはしない。聞き出そうとすることで人が話さなくなることを知っているからだ。黙っていれば間を持たせようとして取っておきの秘密やら、誰にも話さないでよ付きの噂話がポロポロ出てくることを国松Aは知っている。そしてそれを彼と同じスクールカーストの人間に供給してやるのだ、事情通だと思われ、卑しい敬意を向けてもらうために。

 

SNSの類もひどく味気がなかった。写真を乗っけているだけだ。しかしたくさんのいいねを貰っていた。コメントは殆どなかった。最近はやりの緑のSNSはインストールさえしていなかった。

国松Aは坂口Cについて殆ど何も知らないことに気づく。坂口Cと初めて会話したときのことは覚えている。坂口Cは国松Aのにきびだらけの顔面と、だらしなく太った身体、それから自信なさげなつっかえがちの喋り方をみて、彼を嗜虐すべき対象だと決めたようだった。しかし国松Aは中学と同じ振る舞いを受けて笑っていることはできず、そのまま背を向けた。それが最初で最後の二人の会話だった。

だから殆ど何も知らないのだ。しかし国松Aは様々な噂話から坂口Cがスクールカースト上位のリア充なのだと考えている。そしてそういう人間が何をするかについて知ったつもりになっていた。しかし何も無いのだ。

そのスマートフォンから人間味がちっとも見つからないように思えた。それは国松Aのスマートフォンとそっくりだった。実際、見分けなどつかなかった。あえて違いを上げるとするなら、彼の携帯には服屋のメールマガジンが送られてくることだ。そこだけはリア充らしいところがあった。実際、彼は良い服を着ているようだった。

 

 

やはり俺はハメられたのだ、と国松Aは考える。本当のリア充はこんな携帯を作らない。何かのいたずらに違いない、と断じてスマートフォンを引き出しの奥深くに入れることにした。