無意味性の解体
「あんたの自我が作品になる。周りの連中がコメントをよこして、それがあんたの頭の中で滞留するの。それで変化していく神経回路を三次元モデルで再帰的に記述したものを飾るの」
「意味が分からないんだけど」
「意味が分かる必要なんて無いの、君はわたしのことが好きで、私にすべてをあげる、って言ったよね。私はあなたの見た目なんて一つも好きじゃない、正直吐き気がするの。でもね、ちゃんと使ってあげようと思うの。それってやさしさでしょ。一番大切なのはあなたが人間として存在するってこと、ニューロネットワークから形成した擬似回路じゃだめなの」
「俺は君のアートになるのか?」
「アートなんてやめてほしい。その言葉はゴミ。何かあるように見せかけるのがアート。私に伝えたい事も裏の意味も何一つ無いの。一番近いのはヨーゼフ・メンゲレ。彼は実験を試みたけど、それを科学と称したけど、ちっとも科学じゃなかった。膨大な人間の人権を無視して弄れる機会を無駄にしたの。それは科学でもなければ断じて芸術でもない」
「俺は、どうなるんだ」
「そんなの知る必要ない。私だって知らない。今までやった人はいないわ。ただ、ひとつだけ言っておくと、これは不可逆なの。だからもとに戻ることはできない。教訓も、意味も、解釈も何も生み出さない。純粋な残虐と目的のない好奇心なの…。わかってたでしょ、私がこういうことをするって、その上であなたは私にすべてを捧げるって言ったんだよね」
「そう…だ」
「うん。だから両手両足を拘束されても何も言わなかった。私が黙ってあなたの脳に電極を差し入れても文句ひとつ言わなかった」
彼女が喋るとき、全ては録音されている。僕達の契約内容さえも、すべてが飾られるのだ。
「後十分ですべてがはじまる。あなたは身動きひとつ取れなくなる。既に効いてきてるでしょ」
僕は微かに眼球を動かす。
「私のために見世物になってちょうだい。それは無意味で、無目的で、子供みたいに残虐なの。私が全てをはじめたけれど、ここにくるすべての人は共犯者になるの。そうして一人の人間を、壊していく。勿論同意の上でね。本人が完全に自由意志のもとで、契約した内容のもとで。法律の外の自由として」
彼女は笑う。その笑顔が、僕の最後の目覚めとなる。僕は意志を失う。情報が入り込んでくる。それは痛みですらなく、意識は焼失する。