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I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

幸福な過去がほしいと嘆いていた女に何かを与えるべきだろうか

 

どんなに優れた自転車に乗っても、この街から出るための向かい風と、急な坂と、この街に戻るための向かい風と、下り坂があって、だから結局抜け出すのは難しい。抜けだしたところで何も無い平野が延々と広がっているだけだ。空爆はこの辺の地形を全く変えてしまった。奇妙な風が吹き込むのはこの街の独特な構造に関連しているらしい。あらゆる方向から風が吹き込み、中心地で打ち消されるらしい。それは物理学的に非常に興味深い出来事らしく、それゆえに街にはこの国でも有数の観測所がある。ダッフルコートは、強い風でも吹き飛ばないためにあれだけ大きな、象牙状の留め金をかけているのだが、ジッパーで不必要な存在になった、と思うだろう。あれはあくまでもファッションのために、見た目のために存在している、と。しかしこの街に吹く砂はジッパーをすぐに不具にする。観測が何を生み出しているのか何も知らない。外に出るのがひどく億劫なので、誰もがこもりきりになる。街の真ん中には教会がある。高い塔が建っている。それは宗教の建物で、あまり関わるべきではないと教わる。幸福な過去がほしいと嘆いていた女が行き着いた場所だ。彼女に幾分の同情めいた感情を抱いてはいたが、それだけだった。物語をはじめるためには、あまりに風が強かった。