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殺人探偵(全)

三つに分けてアップしたけどそうでなければ書けなさそうだったという理由だし短いので一つにまとめ直しました

 

 

 

私が最後に探偵だったのは三年前で、沢山の人が死ぬのを見てきた。

私が殺したのだ、と考えることもできる。

この国では殺人罪はほぼ間違い無く死刑になる。

だから僕が犯人を見つけるたびに死者が一人増えることになった。

 

それは真実なのだから仕方ない。そして人口過密によって悪化する治安や環境のことを考えれば、正しい犯人が正しい推論によって導かれるのは良いことのはずだった。

私は自分の仕事に100%満足しているわけではないが、証拠はしっかりと集めたし、冤罪は出来る限り防いだつもりだ。しかし一つの列車の乗客全員が共謀して一人を殺した事件では、私は真実を解明するべきではなかったのかもしれない。

 私が声高に真実を主張しなければ少ない犠牲ですんだかもしれないのだ。勿論その死者は恣意的で、不公平なものになるが、それでも全員が死ぬよりはマシではないだろうか。その犯人は質の悪い金貸しで、詐欺師で、悪徳の塊のような人間だった。だからといって殺人が許されるというわけではないが…。

 

そのような内部事情は裁判所では考慮されない。共謀の事実があれば未成年でない限り死刑になる。それから私は彼らの親戚に命を狙われるようになった。

あらゆる事件の関係者から死神として恐れられた。

 

最もまずかったのは警察内部の事件に探偵として顔を出した時だ。

私は完璧な推理をやってのけた。

推論を誰も否定できなかった。明確な証拠があった。

強力な利害を持った人間でさえ、思わず頷いてしまう結論だった。

それによって大規模な警察機構の”再編成”が行われた。

 

結局、私は敵を増やしただけだった。

 

私は亡命を試みている。家族はおらず、両親はとっくに死んでいる。兄は警察に撃たれて死んだ。潔く死ねば良いのかもしれない。しかし私は自らの正義に従ったのだ。それにどのみち私の美学はこの国では踏みにじられるだろう。それに死んでしまえば推理をすることはできない。

 

 

 

関係者全員を集め、真実を解きほぐしていくときの周囲の顔が変化していくさま、加害者の顔が歪み、懇願するようにこちらを見つめる。時には殴りかかってくることもあるが、そうすれば私は思う存分彼を痛めつけることができる。私の趣味が悪質であることは理解している。しかしこれは世が世なら有用なものなのだ。私は私の行動によって法制度が変化を免れなくなると考えていた。しかし硬直した官僚制はささやかな探偵の振る舞いによって乱されることはなかった。だから私はディグフォリア山脈を超えてウクバールへと亡命しようとしている。私の名声は響いているはずだ。何しろどれだけの事件を解決しただろうか…。月に一つの殺人事件を扱った。時には二つ、三つ扱うこともあった。五十を超えてからは月に一つが精一杯だったが。安楽椅子に座ってパイプをくゆらしているはずの私は案内人なしにパイプを吸うことなしに獣道をかき分けて山を登っている。もしも見つかれば銃殺されるだろう。気づかれないように注意はしているが、その時はその時だ。

 

私は山頂にたどり着いた。ここが最も危険な場所だということは分かっていた。ウクバールの側は岩が多い。それゆえに、身を隠す場所は少ないし、注意して歩かなければ砂利道をかき鳴らす音が響き渡ってしまう。

 

案内人がいないのも、手助けしてくれる人がいないのも、私の間接的な殺人が原因となっている。ウクバールを選んだ理由は単純にこの地方では私が仕事をした人間が少ないだけだ。しかし案内人の娘を私は殺人犯だと推理した。そして彼女は泣き叫んで認めた。手心を加えることはできた。しかし私はそれをする気にはなれなかった。彼女は容姿端麗な間男と遊び、発覚しそうになったときに彼を毒で殺した。彼に襲われたと言って。彼はいくらか性的にだらしのないところがあったが調べた限りでは高潔な意図を持っていた。私は彼が死後もなお辱められるのを許せなかった。

 

勿論はじめからわかっていたわけではないが。

 

山を降りていくと私は一人の男に出会った。こんな山奥だというのにスーツを着ていた。しかしどことなく袖のあたりはくたびれて、靴はぼろぼろだった。彼は私を見つけるとすぐに小屋へと入るように促した。

「私はDといいます。とはいえあなたは知らないでしょう。私の父は列車で殺されました。大勢の人間に。あなたはそれに制裁を加えてくださった」

「私はそれを正しいとは思っていない。今でも後悔するくらいだ」

「しかし法律に則った行為です。何も恥じる必要はない。そのおかげで私はここへ亡命し良い暮らしをすることができたのです」

男は何の陰もなく笑った。そしてよく冷えたソーダ水を出してくれた。

「これは私のせめてものおもてなしです」

私は眠気を感じた。彼はベッドまで私を案内してくれた。

 

私は彼の顔の見覚えがなかった。意識が混濁していく中で私自身に味方などいないことを悟った。彼は私を見ながらにやりと笑った。私は殺されるだろう。彼が私をなぜ恨んでいるのかはわからない。しかし法律に則れば問題は無いと考える人間だ。彼は私を告発するだろう。そして政府は身元を引き取り、亡命者として貶め彼に賞金を与えるだろう。

 

ここに探偵はこない。事件はお蔵入りのままだ。最後の事件は何のひねりもなく、きわめて当然の帰結としてやってきたように思えた。

 

私は口の中で舌を動かし、僅かに残る甘味を感じた。それが私の最後の感覚になった。