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I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

洗練された匿名性のために知られてはいけないこと

短編小説

「届かない言葉を届いたように見せかける、それが我々の本当の仕事だ。だがそうだということは絶対に知られてはいけないのだ」

それが会社に入って最初のブレイコウで上司から言われたことだ。

「これは会社で話してはいけない。そういう事実があることさえ言ってはいけない。私がこれについて言うのは最後だ。しかしそれは他のどんなルールよりもたいせつなことなのだ」

「規約には書いていないのですか」「ばかもの、規約に書いたら読まれる可能性があるだろう。だからどこにも書くわけにはいかないのだ…呼びかけに対する応答が作られたものだなんて…勿論奴らは読まないだろうがな、誰かがよむかもしれない。そして誰かがばらまくかもしれない。だからそういうものが存在するという証拠を残してはいけないのだ」

 

有名人に対する道徳的批判に対する対処法。

勿論それは作り物で、彼らの人格と同じで、だから言葉もきちんと消毒されなければならない。それは商品価値を下げる。どれだけの人間が匿名の人間の吐く毒でその商品価値を失うことに、もしくは減衰させることになっただろうか。

 

しかし実名制は毒である。それは無難な発言を強いる。会社員であり家庭人であり特定のコミュニティに属する個人は、それぞれにみせる性格のうちもっとも無難な部分だけを表出させる。だから少しばかり風変わりなアニメに対する感想さえ、そこでは抑圧される。

 

匿名性はときに素晴らしい空間を作り出すこともある。創造的な批評、有意義な議論…だが儚いものだ。たった一人のつまらなく声のでかい人間があらわれただけで壊れる。彼が壊すわけではない。どちらかといえば決定的な破壊に与するのは、そのつまらない発言をつまらぬと言う連中である。彼らはようやく言うべき言葉を見つけるのだ。

 

だから我々は管理された匿名性をそのシステムに組み込むことにした。届かない声を意図的に作り出すのだ。それによって創造性はずっと長く保たれることが可能になる。

 

今までもブロック機能やミュート機能というものはあった。あくまでも個人がやるもので、その発言を見ることをはじめから禁じることはできなかった。

 

だが我々はそれを可能にする機能を作り出した。ベイズ式フィルタによって届かせるべきでない言葉を予め決定することが可能になった。勿論その言葉に対する反応は書かれる。だがそれは自動返信であって、その発言を見るのは哀れな批判者だけなのだ。

 

我々のサービスは極めて好評だが、この事実が知られてはならない。それは我々に何よりも利益をもたらしてくれるのだが、その理由はこのようなシステムを構築したからではなく、優れたデザイン、洗練されたユーザーインターフェイス、魅力的なコンテンツによるものでなければならないのだ。

 

『プリーフェクト社秘密議事録』