読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

I'm only sleeping

日記 雑記 思いつき ついったー https://twitter.com/1dgwa

淡夢

その液体を固定させるために。ありふれた言葉の運命を導くために。絡んだコードが白黒のノスタルジアを流入させる前に。
君が、つまり記憶が、嘘をついたことを思い出してみる。
はじめはささやかなものだった。何も悪いことはなかった。たった一つの傷を隠していただけだ。
それは奥にあるもので、ありふれたトラウマの類のように陳腐な言葉で語られるものはなくて、
だけど語られないがゆえに君を苦しめているものだった。

それに僕は名前をつけた。

半ば固定されていたものが流れだしていった。彼女はそれを必死に両手で押さえ込んだ。
押さえ込むと別のところから流れだすようになった。嘘を貼り付けることでごまかすようになった。
日に日にそれは増えていった。彼女は物語を創りだすようになった。
それが流れ込んだものの代わりになった。

そして僕は気づかなかった。

盗人たちを僕は人だと思った。過去だと思った。それは目に見えるもので、そうでないとしてもなにか確実なのものだと思った。
あらかじめ仕掛けられた爆弾のようなものだと、誰が予測できただろう。それは言葉にすることで火がつくものだった。
あえて無視することもできた。だけどそうしているかぎり彼女は永遠に不完全だった。機械だった。

だけどもしそのままだったら、僕はそれなりにうまく修理できたし、結構楽しめたんだと思う。

君に会えて嬉しかったと彼女は最後に言った。そのボロボロになった体で、流れだす濁った物語を見せないように、新品の嘘の衣を貼り付けながら。そうして背中を向けて去っていった。振り返ることは一度もなかった。坂道を下って、洞窟にかけ出していった。
涙の跡は見つからなかった。彼女が入ると洞窟は崩れた。僕は瓦礫を一つ一つ取り除いた。物語は蒸発して、空に溶け込んでいった。

最後に僕は長い夢を見る。消え去った日常に関する淡い色の夢を。