I'm only sleeping

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視覚モザイク

32色になってしまった世界を嘆いていた。

目を、見えなくなった目を取り戻したいと思った。

サイバネ工学で直せるってクロードが言っていた。今じゃ格安キャンペーンだって、それでチバ・シティの中二階にあるうらぶれたラボで、神経組織を作りなおしてもらった。実際安かった。天然チキンステーキ定食三食分だ。それで世界は32色になった。それを問い詰めたらクロード、これでも交渉したんだ、でもお前金持ってないだろ、それにこれで生きていく分には十分だってドクターも言ってたし、なんて言い訳するから一発ぶん殴って街に出た。世界は途切れていた。あらゆる色の裂け目がみえた。人々の顔はいびつで、化物めいていた。空はあまりに陳腐な青だった。

俺はサチコの家に行った。彼女の肌の白さをこの時ほどに渇望したことはなかった。人の顔を見ぬよう、なるべく早く歩いた。なるべく空も人も見ずに歩いた。ぐじゅぐじゅと崩れていくのは涙のせいだ。散乱した光がくっきりと目を切り裂いた。

マンションの4階にいた彼女は、俺が久しぶりに姿を表したのを嬉しそうな声で迎えた。表情は見えなかった。目と髪の黒は同じ色で、真っ白な肌は部屋に溢れる光と同化して、唇だけがグロテスクに動いていた。俺は彼女の表情を読み取れなかった。でも…

何も言わずに俺は抱きしめ、口づけを交わした。カーテンを閉じると彼女の顔はたちまちモザイクになり、そしてずっと心配してたの会えて嬉しいって言葉も三角波の近似でしか捉えられなくなっていた。彼女に事情を告げるわけにはいかなかった。せっかくだけど、俺は急ぎの用事があるのだと言って、離れた。振り返ることはできなかった。