I'm only sleeping

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綿菓子の地下

 ときどき地下に潜っていく。ふんわりとした部屋があって、僕はそこにこもる。空気は少し濁っている。明かりはないが、目を凝らすと坑道が見える。僕が掘った道だ。はじめはただの小部屋だったのだけど、僕が何度も潜って道を作り、幾つかの場所をひらけた場所にしたのだ。放射状に広がった8つの道があって、それぞれ途中で左右の道との連絡通路がある。壁は柔らかいから、普通は綿菓子でもむしるようにすればどんどん掘っていくことができる。何がみつかるわけでもない。財宝もお金も落ちているわけではない。ただ、そこから出たときになんとなくすっきりとした気持ちになるのだ。

 

 最近掘り進めている道は、少し下の方におりていく道だ。天井は所詮どこに向かうかは知っている。実際、地下を上に掘っていったら堅い場所にあたる。きっとコンクリートか何かで、僕らの住む街を支えているものなんだと思う。僕はここで他の人に出会ったことはない。だけど同じ作業に熱中している人を見分けることはできる。声をかけたことはないけど、ちゃんとわかるんだ、いや、一度声をかけたことがあって、その人は穏やかな目をして、少し感激したみたいで、でもやっぱりあまり人に言わないほうがいいよと言っていたんだ。地下には街があるのだと僕はときどき空想する。ほり下げていくうちに、同じようなコンクリートで覆われた、僕が住んでいるような街にあたるのだと、そこにいる人たちは、こうやってやってきた人たちで、だから結構年はいってたりする。かなり深くにあるんだけど、真下に掘っている人たちは、上手くやれない。というのはそうやって一点を深く掘っていると、ふわふわの素材で出来ているから上に上がることができなくなるのだ。何かを持ってきたことはない。うっかりなくしてしまったら困るし、さくさくと道を掘っていく音は心地よいから。僕はある方向の道をある程度伸ばしては、別の方向を伸ばすという具合に掘り続けていたんだが、最近はこの道、階段を降りてそのまま真っすぐの道をずっとしたに掘っているんだ。螺旋を描くようにして、だけど地面を蹴破ってしまわないように、すこしずつ直径を広くして。

 

 10歳の時はじめてこの場所に気づいた。12歳のときに掘り始めて、もう10年になる。大体の人は12歳から15歳くらいまで掘って、それでおしまいにするんだ。世の中にはもっと楽しいことがあるし、仲間内には一人くらいすごく熱心な奴がいて、そいつも結局何も見つけなかったことに気づくんだから。だけど妙な噂もあって、掘り続けることで本当がわかるとか、真実だとかお宝だとか、それに、新しい街の話がある。だけど実際にそんなことは起こらない。ときどき行方不明になってしまう人がいるけど、それは急いて真下に掘り進んでしまった場合だ。大切なのは気長にやることだと、僕は思っている。何かがあるにせよ、ないにせよ、汗をながして柔らかな壁をしゃくしゃくと掘っていくのは楽しいし、それがどこかに繋がったときの光景を考えるのは僕にとって大きな楽しみの一つだから。

 

 僕が空想するのはこんな光景だ。そこは特別な天国じゃない。僕らの街と全く同じなんだ。おんなじようにコンクリートに覆われていて、おんなじように一軒家が立ち並んでいる。ひょっとしたら地下室には、おんなじような入り口が開いているのかもしれない。だけど、ひとだけが違うんだ。そこにいる人はみんな、こうやって穴を掘ってきた。10年も、20年も、こつこつと、いろいろなことを考えながら。様々な空想に浸りながら。だからそこの人たちは、降り立つ前の街とは違った人たちが集まっている。人は少ないし、穏やかな時間が流れている。それで、いろいろなことを話たりするんだ。そこで始めて話し相手を見つけられる人がたくさんいる。でも基本的にみんなひとりがすきだから、作物や家畜の世話をしたり、本を読んだり、さらに地下を探ろうとしたりしている。だけど喧騒はないから、きっと天国みたいな住み心地なんじゃないかと、僕は思うんだ。何にせよ今住んでいる場所はうるさすぎるからね。