ソウルフルな経済学一章・二章の要約
ソウルフルな経済学。
僕は思う。経済学はなんだか妙な偏見に彩られていると。
一流の経済学者であったピーター・ドラッカーは経済学の無効について書いた。だけどそれはがちがちの数理経済学モデルへの固執が酷かった時期だということを考慮すべきだ。
経済学は文系の学問だが、いわゆる文系からは省かれているみたいだ。
そしてその幅広さに関しても、あまり理解されていない。
スティーブン・レビットの「ヤバい経済学」や本書を読めばそれがまったく違ったものだとわかるのだけど。
本書が説明するのは「経済学と心理学のオーバーラップから生じた新しい理念や発見、そしてこれらの経済学全体に対する意味合い」だ。
要約
第Ⅰ部 富と貧困の謎
第一章 歴史探偵
アンガス・マディソンが世界の経済成長のデータを収集・分析したおかげで、ここ一〇〇〇年の経済成長の状態がわかるようになった。
データの要約がはてな匿名ダイアリーにあった。
http://anond.hatelabo.jp/20100424202823
つまり、これによっていったいいつ経済成長が始まるのか、ということがわかるようになったのだ。それまではこういったデータは存在せず、GDPのようなまともな経済指標が生まれたのは一九四〇年、それがまともに適用され始めたのはそれよりも後だ。
この徹底的なデータ収集と分析によって、経済成長を決定する要因の証拠を得られそうだ。
これによってわかる重要な例は、経済成長の転換点、つまり大きな成長が見られ始めたのは、ルネサンス期というのが定説だが、データを見る限り、それが起こったのは一八〇〇年頃だ。
文化と経済成長との繋がりは、とてもゆるやかなものだということがわかる。文化の発展が経済成長と関わるには、長い時間がかかるようだ。
ここからわかるとおり、しばしば著者は通説への反論をデータに基づいて行う。通説、というのは個別の議論でもあるが、経済学全体への偏見という面が強い。
こんなことが学術的な問題以外にどう重要なのかと思う人もいるだろう。
これは貧困を無くす方策を考える上で重要になるのだ。つまり、経済成長の原因がわかれば、経済成長を引き起こすことができる。少なくとも、適切な投資ができる。
一三〇〇年から一八〇〇年までの経済成長の要因とされているものは、8つあるが、実際に統計的に説明ができるのはそのうちの3つだった。
その要因は
早い時期における都市化
貿易量
製造業におけるイノベーションと生産性
だ。他に主要な要因として見られていた人口に対する土地の量、囲い込み運動、識字率、独裁的な政府ではなく、立憲的な政府であること、帝国主義は統計的な影響がみられなかった。
第二章 なにが経済を成長させるのか
経済成長の要因は、データが大量に得られ、コンピューターによる分析が用意になったから発見できるようになり、経済成長をやりくりするほうほうも、それによって見つかった。
経済成長を引き起こすレシピといったものは存在しない。国によって資源や状況は異なり、また他の国家との相互作用があるために、単純なものにはならない。
経済発展をどのように説明するか、という見方はさまざまなものがある。これがなんともややこしい。古典派、新古典派、ポスト新古典派、近代成長理論とそれぞれの説明が続くが、派閥の名称が何の説明にもなっていない。
なんとか要約してみよう。正しく説明できる自信はない。
古典派
アダム・スミス、トーマス・マルサス、カール・マルクスがこの中に入る。基本的に思想というのに近い。どんなふうに経済を見るのか、ということだ。アダム・スミスは需要と供給の曲線を見出し、個人の自由を重要視し、国家の恣意的行為の抑制をすべきだとした。もう一つ重要な点がある。経済成長は分業、専業化に依存すると考えた点だ。
マルサスの主著人口論は、農業における収益逓減の原則をしめした。農業が集約することによる効率は、集約するごとに落ちる。
そしてカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルス。経済成長の過程で、資本の蓄積、中でも技術に重要な役割を与えた。この点でマルクスは先見の明があった。
ここで、数理経済学が発展する。均衡概念、静的分析を中心にした経済学だ。
ソローモデルのエッセンス 産出の成長は投入の成長とそれらの投入がどれだけ効率的に利用されたかに依存する。
このモデルの問題点は、技術革新に焦点をあてていないために、それを扱うことが困難なことである。
ポスト新古典派
ソロー・モデルが上手く扱えなかった二つの要因を扱えるようにする。労働投入の伸び率と、技術変化だ。そして収益逓減の原則にあてはまるのは、資本と労働で、技術はその逆、つまり収益逓増だということがわかった。
近代的成長理論
ここで中心になるのは、技術やアイデアだ。それがどのように生まれ、どのように広がっていくのかということだ。それには人口の集密や、人口自体の多さが関連する。
また、成長を促すのは、成長を止めるよりも難しい。
ここで重要になるのは、イノベーションの分析だ。
第三章は、世界的な貧困の撲滅を行うためにどのような施策がなされてきたか、またそれがどうしてうまくいかなかったのか、そしてどんなふうにすればうまくいくのか、といったことを分析している。これはこの本のハイライトの一つだ。